東アジアの家庭教育と文化研究
「東アジア地域における家庭教育と規範的文化の継承に関する国際比較研究」
―台湾における家庭教育機関のヒアリング調査(2019年実施)・要約-
早稲田大学 新保敦子
台湾における家庭教育
台湾においては、「家庭教育法」が制定され(2003 年制定、2019 年改正)、家庭教育に関 する積極的な行政施策が展開されている。家庭教育法の施行に伴い、「家庭教育中心」が各 市・県に設置されており、また大学には家庭教育に関するコースや専門課程が開設される ようになり、家庭教育の専門家が養成されるようになった。日本に比べて、家庭教育に関する行政的な整備が進んでいると言えよう。
こうした「家庭教育法」であるが、その基本理念としては、行政機関が家庭教育の推進にいかに努力すべきであるかを規定した法律であることに注意したい。家庭教育を個々の親の責任とするのではなく、いわば家庭教育を広く社会全体の任務と考え、その中で行政 機関がどのような役割を果たすべきかを規定した法律である。
このように、台湾では、家庭教育の推進施策が21世紀に入って以来、行政によって積極的に展開されてきた。その背景としては、台湾社会の近代化に伴う家族関係の希薄化、新移民の流入増加による新たな家族問題の発生などがある。
本報告は、2019年に実施した台湾における家庭教育機関のヒアリング調査の報告(要約)である。本訪問は、科研プロジェクト「東アジア地域における家庭教育と規範的文化の継承に関する国際比較研究」(基盤(C)2019年度~2021年度)の一環として実施された。参加は筆者の他、天童睦子(宮城学院女子大学)、一見真理子(国立教育政策研究所)である。台湾側での調査コーディネーターとしては朱芬郁(実践大学)、調査協力者として翁麗芳(台北教育大学元教員)、通訳は蔡天文(専門通訳者)の各氏がそれぞれ協力してくれた。
訪問先としては、新北市政府家庭教育センター、光宝文教基金会、教育部終身教育司であり、個別インタビューとして、中華民国成人及終身教育学会顧問、台北市政府元職員(家庭教育担当)、2世代(一家族)へのインタビューも実施した(日程は、2019年12月25日から30日)。
主要な調査内容および得た知見は下記の通りである。
- 家庭教育法の基本的理念
- 家庭教育センターの活動事例
新北市政府家庭教育センター視察 同センターの主な事業は、1)親子職教育(ペアレンティング教育)、2) 婚姻教育、3)倫理教育、4)多元文化教育、5)人力資源及び管理、6)宣伝指導普及、以上である。
- 光宝文教基金会 視察
光宝文教基金会は、光宝科技によって創設された基金会である。企業の社会的貢献の一環として教育事業を実施している。今回の訪問にあたっては、陳順良執行長、呉銀玉総監に対応いただいた。視察をした日に、ちょうど、ボランティアの研修会が開催されており我々も参加した。環境問題など幅広いテーマが取り上げられ、「循環経済」、「GDP に関する親子の対話」等の具体例が挙げられた。聞き取りではボランティアが学習する内容はかなり専門性が高い。また、こうした子どもたちへの支援を通じて、自分の子どもの家庭教育においてもメリットがあるとの声があった。
- 教育部終身教育司訪問および聞き取り終身教育司の顔副司長に対応いただいた。
知見のまとめ
台湾での家庭教育の法的整備は、2003年の家庭教育法から出発している。様々な家庭教育に困難をかかえる家庭に対して、行政がどのように支援を行うのか、いかに専門的な知識を持った職員を養成するのかという点から、家庭教育法は出発している。
その後、各市・県における家庭教育センターが設置され、専門的な職員の配置も、次第 に実施されるようになってきた。また、民間の団体とのコラボによって、メンター制度を 実現するなど、意欲的な活動も展開されている。
こうした家庭教育における施策・実践は、子どもの貧困や虐待が大きな社会問題になりつつある日本社会にとっても参考になるように思われる。台湾における家庭教育の展開を継続的に注視していきたい。
その他 収集資料
『我和我的孩子』(幼児辺、低学年、中学年、高学年用)
『連絡簿』新北私立国民中学 品徳教育連絡簿 7年用、9 年用
『当我们童在一起 EQ 情緒教育初級編 我的心情日記簿』『同教師用指導書』 『情緒照顧 EQ 美学系列 美学卡』
『24 節気ゲーム』
*本調査内容の詳細は、新保敦子によるまとめ 『成人教育におけるライフストーリー分析』NO.10(早稲田大学ライフストーリー研究会、 pp.136-144、2020 年 2 月)に収録。
*本調査研究は科研費補助金「東アジア地域における家庭教育と規範的文化の継承に関する国際比較研究」(基盤(C)2019年度~2021年度)JSPS科研費19K02571 (研究代表 小林(新保)敦子)の助成による研究の一環である。
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左から朱先生 小林・新保敦子、一見、天童
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台湾 新北市での市民女性インタビュー
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インタビュー