東アジアの家庭教育と文化研究
本の紹介
『デジタル時代に向けた幼児教育・保育ー人生初期の学びと育ちを支援する』アンドレアス・シュライヒャー著 OECD編 一見真理子・星三和子訳 2020年2月 Helping our Youngest to Learn and Glow: Policies for Early Learning (Schleicher, 2019) の日本語訳
目次紹介/あとがきより一部抜粋。
- 目次
- 第1章 人生初期の学びのための政策:公平なアクセスの提供
- 第2章 人生初期の学びのための政策:労働の編制と職員の資格
- 第3章 人生初期の学びのための政策:ペタゴジーをよりよく形成する
- 第4章 子ども・テクノロジー・教えること
本書は2019年3月に北欧フィンランドで開催された「国際教職サミット」が初めて乳幼児期の教育とケア(ECEC)に焦点を当てたのを機として、同サミットへのエビデンス情報提供元であるOECD(経済協力開発機構)を代表して、アンドレアス・シュライヒャーOECD教育・スキル局長自らが、乳幼児期に関わる重要な調査研究結果を要約し、関係者へ向けて供覧した冊子Helping our Youngest to Learn and Glow: Policies for Early Learning (Schleicher.A, 2019)の日本語翻訳書である。
本書のはじめに紹介されている2030年を見据えた国連「持続可能な開発目標4.2」(乳幼児期の発達支援とユニバーサルな初等前(就学前)教育)は、本書全体の基調である。
21世紀の到来とともに、OECDでPISAなどの大規模調査と併行して、立ち上げられたのが、Starting Strong(「人生の始まりこそ力強く」)プロジェクトである。そこでは、参加諸国と地域の乳幼児期のあらゆるステイクホルダーの力を結集して、女性の労働参加や貧困と格差解消のための保育政策のあり方、生涯発達を保障する保育実践・保育労働力の質の向上を検討し、ECEC(乳幼児期の教育とケア)という概念を打ち出し、
- なぜ各国政府は乳幼児期に投資すべきなのか、
- ECECのよき実践のために国際的に共有すべき主要な経験はなにか、
- とくに認知面と社会情動的なスキル発達のバランスはいかにあるべきか、
- 「保育の質」の主要な構成要素は何か、
- 質保証の政策を動かすときのツールは何か、
といった本質的かつ実務上も重要な問題を取り上げてきた。
シュライヒャー氏は、こうしたECECネットワークでの議論と共有された知見や図表から、エッセンスをよりすぐって要約しなおし、氏ならではの冷静な検討を加え、各章の結論を導いている。これが、本書の第一の特色といえるだろう。(中略)
また第4章で「子ども・テクノロジー・教えること」を取り上げている。この章のみは、ECECにとっての予告編となっており、データ的な制約から話題は就学前に限定されずティーンエイジャーにまで及ぶ。ここでのテクノロジーとは主として情報通信技術(ICT)のことであり、デジタルネイティブ世代の子どもたちの健康と安全をめぐる先行研究の批判的吟味にまずは注力されている。また、シュライヒャー氏らしくエビデンスの不足と空白部分を指摘しつつ、テクノロジーと子ども・教育をめぐる大規模で長期的な研究の必要性をも示唆している。
著者のシュライヒャー博士は、21世紀のグローバル社会到来に対応する資質能力としての「キー・コンピテンシー」をOECDが同定した際に、そうした能力が生涯を通じていかに育成、保有され、また更新されていくかの動向を把握するための一連の手法を共同で開発し、大規模国際調査(PISA:生徒の学習到達度調査、TALIS:国際教員指導環境調査、PIAAC:国際人力調査など)を推進し、政策立案のためのエビデンス形成と蓄積をはかってきた人物として著名である。(訳者の一人 一見真理子の「あとがき」より抜粋)